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散文

0.5次元、足したり引いたり

2022.03.29

舞台『アクダマドライブ』全公演が無事終演し、東京にかえってきました。
おうちに着くと、ただ泥に沈むように、地球の中に落ちていくように、ひたすらひたすら眠った。
人ってこんなに眠れるんだなあ、と。


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『アクダマドライブ』はテレビアニメから参加させていただいて、引き続き舞台でも一般人を演じさせていただいた作品でした。
堂々と『2.5次元』と銘打っている作品への参加は初めての経験でした。


アニメから引き続き演じたけれど、特段作品に詳しいわけでも監督たちと何百時間も製作に携わったわけでもないので、稽古開始当初の作品に対する知識は繰り返しアニメを観たと言ってくれている今回の俳優陣と同じか……
むしろ私の方がわかっていないことも多かったように思います。


実は、
アニメから引き続き演じているという事実あるだけで、言い回しやニュアンスの込め方など、わたしだけ免除されるところがたくさんたくさんありました。 
それぞれの役には特徴的なセリフが多数存在しているのですが、特段そのセリフの言い回しに関しては『アニメの時と大差ない』ということが、"2.5次元である"現場として大前提にあるようでした。
『違う言い回しをしたら物語としては弾むけれどキャラクターとして破綻してしまう』という葛藤の中、絶妙な塩梅にたどり着いていく愛情とセンスにただ脱帽の日々でした。


稽古序盤では、個々の俳優の素質が魅力的な分、言い回しが固定されていくのは勿体無いと感じる瞬間もありましたが、全てを繋いで物語を見た時にとても楽しく見やすく、伝えたいことを伝えるための最善策として潔く聡明な判断なのだと感じました。
自分の思慮の浅さに落ち込みました。


演出の植木豪さんは、
悩み苦しむ私を励ましとても親身になって相談に乗ってくださいました。
「僕の演出は劇場に行くまでわからないこともたくさんあると思うから悩みすぎないで」という言葉を信じ劇場に入ったら……
なるほど、と。思っていたのと全然違う世界がそこにあって驚きばかりの劇場稽古でした。
「なるほど!」な映像演出の連続で!


さらに初日を観に来てくれた大尊敬の俳優さんからヒントになる考え方を得て大納得。
それからはもう無敵モードでした。
大信頼のキャストスタッフそして演出に助けられ、支えられ、楽しませてもらいながら。
全21公演、とっても苦しくてとっても愛おしい時間を過ごしました。




キャスト発表の時にも『2.5次元』というジャンルに対するリスペクトゆえの葛藤をここに記したのですが、体感してみて改めて感じたことを今残しておこうと思います。

『2.5次元』と言われる作品と『実写化』と言われる作品が混在し、明確な定義付けがされないまま進んでいるこの業界において、『2.5次元』といわれるジャンルの作品の製作はいままだまさに発展途上段階でとても夢のあるジャンルであると感じます。
もっといろんな垣根が取り払われていけばもっと豊かになりそうだと感じる反面、製作側とお客様から共通して感じ取れるこのエネルギッシュさと真っ直ぐさがいつまでも失わないで存在し続けてほしいとも感じました。

『2.5次元』と呼ばれたり一括りにすることに抵抗がある人もいるし、もちろん演劇の中の手法のひとつであることに変わりないのですが、『2.5次元』は『2.5次元』として突き詰めて成長していってほしい"ジャンル"であると、携わった末に黒沢自身は感じました。非常に個人的な感想ですが。



クリエイティブスタッフやランニングスタッフそしてキャストたちは、私が当初思い描いていたよりも何千倍も何億倍も愛情と敬意を持って苦労を顧みずに作品作りに挑んでいます。
開演のギリギリまでクオリティを高めるために修正を繰り返すプロジェクションマッピング班にLED映像チーム、光ったり消えたりする特殊な衣装や小道具の製作チーム。
もっと力を抜いていいのに、もっと簡単にできる技を選べばいいのに。
それでも、
この役だったらこの浮遊感が、この役だからこの速度で動きたいからと自身の体に鞭打って、辛そうな顔ひとつせず、公演時間以外を全部メンテナンスに費やしながらも毎公演を全力で生きる共演者の姿に、私は心底感銘を受けました。



正解なんてない芸術の世界ですから、何が正しいかなんてわからないけれど。
あのスタンスでやっていくなんて自分の子供だったら止めたいくらいの気持ちだったけれど。
あの魂を尊敬したい。
人としての彼ら彼女らに敬意を表したい。
そう思いました。



今回、観に来てくれた友人達からの感想は皆一様に「元気をくれてありがとう」でした。こんなことはじめてです。

あんな風に作品作りに向き合うクリエイティブスタッフや俳優たちがもっともっと自由に、楽に、表現できる文化水準を目指して、あの素晴らしいクリエイションがもっとたくさんの人のもとに届くことを夢見て、今日もわたしは私のできることをやっていきたいと思います。



今日も明日も明後日も。
全てエンターテイメントと物語に愛と敬意をめいっぱい込めて、また今回のメンバーとどこかで巡り合えるように日々精進を重ねます。

舞台『アクダマドライブ』そして、黒沢はじめての2.5次元作品への挑戦はこれにて完結!
劇場に来てくださった皆様、配信でご観劇いただいた皆様、本当に本当に、ありがとうございました!!!

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