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散文

苺始

2023.02.27

クリスマスにたくさん街に出回るからか、いちごは冬の果物のようだけれど、本当は冬のイチゴは特別なもので春のとっておきの宝石らしい。
確かに実家にいる時に冬にイチゴを食べたことはほとんどない。
シーズンが終わりかけで安くなっているのを食べていると勝手に悲しく思っていたけど、実際の旬は4月5月で、実のところその1番美味しい時期のイチゴを食べさせてもらっていたのだということを大人になってから密かに気づいた。

以来、冬のいちごは自分では買わない。

買わない、のだけれど、この前銭湯に行ったら、どういう展開か、銭湯の番頭さんの横の台になんならもう黒と言っても過言ではないくらい熟れた苺がパンパンに特大パックに詰まって1200円だった。
「苺1200円はちと高いな」とは思ったのですが、何しろ特大パックにぎゅうぎゅうでしたので、誘惑に負けてお風呂上がり、ひとつ買ってしまいました。

そもそもアイスが食べたかったので、ミルクアイスも買いました。
お風呂上がりに畳のエリアで、あっつーいお茶を啜りながら食べるアイスの美味しさったら何物にも変え難いので、大きい銭湯や温泉に行くと、1人でなくてもやってしまいます。
1人の時は当たり前にやるし、車じゃなければビールも飲みます。あたりまえです。

その日も同じようにサウナ終わりお風呂終わりのほかほかの身体で湯から出まして、アイスを買おうと受付へ。
そしたら見つけたんですよ、苺。
買ってしまって、アイスと、苺と、あっつあつのお茶をもらって畳が敷かれたゴロゴロエリアへ。

テレビでは「ピアノ王決定戦!」的な企画のバラエティが流れていて、"おふたりのピアニストがひとつの曲を交代交代に弾いて、ミスタッチが少ない方が勝ち”ということで演奏をしていました。
お二人ともとっても上手で、なのにみんなが煽るから、あぁかわいそうやなあと思いながらアイスを一口。
ところがまだかちこちで、サクサク食べられそうにない。
うーんと思って、何気なく、イチゴをひとつ口に放り込んでみたのです。そうしたら、さっき、わたしはアイスクリームを食べたんですよ、食べたのにも関わらず、いちごの方が甘いと来た。

ははぁこれは、やられました。

おそらく流通に出せないほどの小ぶりな完熟ブランド苺様は、1200円以上の甘さでわたしのことをぶん殴りました。

それからのことは、よく覚えていません。
気がつくと、いちごのパックはからで、アイスの硬さはちょうど良くなっていました。
わたしは何事もなかったように、アイスを食べながらまたテレビを見ます。
テレビの中では次の組みが同じようにピアノで戦っていました。さっき見ている時は「もっと普通にピアノ弾かせてあげたらいいのに」って少しムッとした気持ちだったのですが、今となっては「本人たちもやりたくてやってるのだから、こちらはそれを楽しんであげた方がいいに違いない」という寛容な心持ちになっておりました。


皆様も、銭湯に行った時、もし完熟のいちごのパックを見つけたら、少し高くても買うことを選んでみてください。
すこし、穏やかになります。


燦々たる日々爛漫に
明日も良い日でありますように


※翌日は無事お腹がギュルギュル言っていました。ご了承下さい。

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